会社帰りに、渋谷の楽器屋でベースを買った。
安くない買い物だ。それなりに迷いもあった。俺なりの大決断だ。
「え? 俺がベース? ピアニストのこの俺が!」

ぼくはすでに30歳を超えているので、分類としてはもう「おっさん」だ。
だけど、どうしても3ピースでパンクバンドをやりたかったのだ。
高校の文化祭のために結成したような、そういうバンドをやりたかったのだ。
純粋に、衝動的に音楽を鳴らしたい。
敏感テクニコに新たにドラマーが加わった。マジでうれしいです。
それにともなってぼくの担当楽器をキーボードからベースに変えることになった。
「ピアノの貴公子」「東洋のリチャードクレイダーマン」と呼ばれたボク(うそ)。
そんなぼくがベースを始める。
ぼくは男子としては体が小さく、手や指も小さくて細い。
ベースはギターに比べると、弦が太く、フレットが長く、そして重量がずしりと重い。
本当に俺はベースなんかできるんだろうか…。
ぼくが高校のころ同級生とやっていたロックバンドのベーシストは、身長が190センチもある巨人だった。ベースの弦をバッチンバッチン叩くようなプレイをしていた。(ぼくはキーボード担当)
ぼくはこの高校のバンドと掛け持ちで、40歳過ぎのおじさんたちとジャズバンドもやっていた(ぼくはピアノ担当)のだが、そこのベーシストのおじさんも柔道選手みたいな体格の、分厚い手のひらとぶっとい指をもった、やはり勇ましい男汁が吹きこぼれたようなガテン系だった。
ベースはそういう男塾みたいな、獣のような漢(ヲトコ)たちがやるもんだ、「趣味は読書と電車です」とか言ってる俺には所詮無理なんだ…と、くよくよ考えていたら、その不安が夢になって出てきた。
夢の中でぼくはてくにこのギターに合わせてベースを練習しているのだが、ずっと「できない! できないよ!」と泣き叫んでいるのだ。「一番遠いフレットに手が届かないよ! それに指がちぎれそうだ! イタイ、イタイ、痛い!」とか言っているのだ。そういう夢。
情けないですな。
だが、もう買ってしまったのだからやるしかない!
今日から毎日ベースの練習だぜ。

(びんかん)
ばばんばばんばんばん〜