そうだった、1ヶ月前にコーヒーメーカーを買っていたのだった。
箱にしまったままずっと放置していた。放置プレイだ。
思い出して箱から出し、さっそく豆を挽いてコーヒーを入れた。

いきなり話が飛ぶが、当初は薫製(くんせい)をやってみたかったのだ。
ハムとかチーズとかサーモンとかを炉の中で煙で焙るやつね。
なんかC.W.ニコルみたいな山男がやってそうじゃん。丸焼きの肉をナイフでえぐってナイフのまま食う、みたいな野蛮な男。孤独を愛する男ニコルは、今年も黒姫高原の山奥で厳しい冬の寒さを乗り切るために肉を薫製にして保存し、それを食べながら動物たちと春を待つ。(妄想です)
ほうぼうで「薫製をやってみたい」と言ってまわった。
会社の役員の人と飲む機会があったのだが、そこでも「薫製やりたい」と言ってみた。ある年齢以上のおじさんになるとけっこう薫製について造形のある人が多く、煙の温度管理だとか時間だとかのうんちくを語る人もいる。そしてみんな口を揃えて言うのは、
「キミにはまだ薫製は早い」
ということだ。ぼくはまだ青二才の、ぺらぺらな若造だということだ。
そうかい。分かったよ。酒と女そしてクルーザー。男の欲望すべてを手に入れ、そしてすべてに飽きたら「そろそろ薫製かな」とでも言いたげだ。
「まずは美味いコーヒーを入れられる男になれ」
と言われた。うむ、確かに。
ぼくの中で、六本木ヒルズ最上階のオフィスで夜明けの東京を見下ろしながら入れたてのコーヒーを飲んでいる男のイメージが浮かんだ。彼は決断を迫られている。彼が判断を誤れば何億という損失を被り、そして日本経済が大打撃を受ける。不況、食料危機、戦争…。コーヒーを飲み終えた男はイタリア製のスーツに腕を通し、屋上に待機させてあるヘリに乗り込んだ…。(妄想です。高須クリニックのCMみたいだけどな)
それでコーヒーメーカーを買うことになったのだ。
でもまあ正直なところ、コーヒーも薫製も今はもうどうでもいいんだ。
まずは美味いコーヒー入れられるより先に、ベース上手になりたいよ。
あれから毎日練習している。会社から帰ってから寝るまでずっと弾いている。楽しくって仕方ない。
一度、指先の皮がデロデロにずるむけになった。そしたらあれだけ痛かった弦を抑える指がぜんぜん痛くなくなった。最近はロックでパンクな気分がいつも心を占領している。アドレナリン出ちゃってる。毎日が高校の文化祭準備をしているような気分だ。浮ついて、走り出したい気分。「あー」って叫びたい。
薫製はまだずっと遠い。

(びんかん)
それがわからんのよ。
俺は昼食ったらとりあえずだらだら中央線に乗って行こうかと思うが
謝礼は出るのか。